ふたたび、きみのこと
音楽でも本でも、好きなものほど、
それを誰かと共有したいという思いは薄くて、むしろ隠しておきたいとすら考えてしまう。
そういう気質が人を遠ざけて、(よいとはいえない)殻をつくっていることも自覚しつつ。
それなのに、きみに僕の好きな本を手に取ってもらいたかったのは、
勝手な想像だけど、きみならこの本を気に入ってくれるかもしれない、
そして、きみにはこの本を好きな自分を知ってほしい、
そんなふうに思ったからなのだろう。
むかし──といってもそう遠くはないむかし──阿佐ヶ谷にこの本のタイトルのカフェがあって、
一度だけ足を運んだことがある。
もちろんひとりで。
この作者を好きなオーナーが開いていたそのお店は今はもう無く、
でもきみと行きたかったなと思う。
きみとだけは。
─ ─ ─ ─
大好きなきみ
自分の個の世界のためにあるような本だった。
今では手にするだけできみのことを思い浮かべられる一冊になりました。
この物語が持つ、遠い記憶をたぐり寄せるような感覚と、
きみに触れているときのイメージが似ているからなのかもしれません。
訳者による文体の柔らかさと、きみの声の柔らかさも。